
始まりはリストリーに届いた1通のメールから。
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from 東京都 N様
時代家具リメイク改造依頼
リストリー ご担当者様
お世話になります。
90年程前の和箪笥をチェストとして「リメイク」を考えております。
下記内容にてリメイク施工が可能か、ご判断頂きたくお問い合わせ致します。
1) 小さな引き出しを使用して新しく小ぶりのチェストにリメイクして頂きたい。
2) 東京在住の為、現物をこちらから貴社に送らせていただくことで考えております。
3) チェストの基本的なデザインにつきましては貴社にお任せ致します。
4) 箪笥の前面部分に使われているチーク材を利用して製作して頂きたい。
5) 塗装はシェラックを使用したフレンチポリッシュでの仕上げを希望しております。
お忙しいところ恐縮ですが、ご検討の程宜しくお願い致します。

- はじまり -
思いをカタチに
左の写真は和箪笥の「台輪」「下置」「上置」を順で撮影。
一口にチェストと言えど多くの種類があり、通常どのようなスタイルの形を求めているかが今後の舵をとる指針となるのですが、リメイクをしたいお客様の思いは「チェストが欲しくてリメイクする」のではなく、「和箪笥の面影を感じられるリメイク」を望まれて、普段使いできるチェストという身近な家具を選択しました。
私たちが今回のデザインで最も大切にすべき事は、
「用途をカタチにするのではなく、思いをカタチにしたデザイン」
できる限り面影を残し、使う毎に味わいが増し、これまでの長い歴史にこれからの新たな歴史と思いを刻むに相応しい家具を作る事。
リストリーが得意とする英国家具スタイルで、50年でも100年でも使い続けられる飽きの来ない家具デザインとクオリティ。
お客様の求める、本場のアンティーク塗装「フレンチポリッシュ」で、経年変化を楽しめる艶やかで深みある塗装仕上げを施したい。
・・・少しずつ、思いがカタチになっていく。
![]() 台輪 | ![]() 下置 |
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![]() 下置抽斗 | ![]() 上置 |
![]() 上置抽斗 |
- 古家具との対峙 -
長年西洋アンティーク家具の修復に携わってきたリストリーですが、これまでに数多くの和製時代家具修理も手掛けてきました。今回はそんな和製アンティーク家具の代名詞とも言える和箪笥リメイクをご紹介。
両サイド・天板・内部は全て杉材で組んであり、正面枠・引き出し・台輪はチーク材で構成されておりました。
青く錆びついた取っ手金具、固く回らなくなった鍵からは長年使い込まれてきた趣を感じます。
これら全てを一度解体し、箱となっている杉材を撤去、正面と抽斗に使われているチーク材のみを使用して再度チェストを構築します。
古いチーク材が本当に再利用できるのか、新規木材を使うならばどのように使うか、よく吟味しなくてはなりません。
テーマは既存チーク材の「利用・再生」


約90年間、幾度となく訪れた日本の四季。暑さと湿度、寒さと乾燥を長年乗り越えた木材はどの様な状態なのでしょうか。見ていきましょう。
外装塗装は、オリジナルの薄いニス塗装の上からウレタン塗装の様な塗膜を近年塗った跡があり、塗装劣化で表面がベタつき、変色しています。
正面の抽斗や枠に使われているチーク材は乾燥しきって導管が開き、本来持つ油分が感じられないものの、酷いヒビ割れや大きな歪みもなく流石は頑丈な木材だけあって「整えれば使える。」そんな印象でした。
木材の状態は乾燥や歪みだけではありません。
写真の様に、全ての木材の寸法をとり、製材せずに「リメイクに使える木材」を選定したいのですが、その値は思った以上に不揃いでした。
使いたいチーク材の幅・高さ・厚み、どこをとっても見事に揃わない。
例えば、幅120㎝の引出しの左木厚が14mmとするならば、右木厚が9mm。
…え?9mm!?
古家具の醍醐味ですね。 さて、どう構成していこうか。
古材の老朽と裁断精度
- 「和+洋」のデザイン -

0から作るオーダーメイド家具のデザインとは違い、リメイクならではの面影を残したデザインを提案
正面の木材・組み木作りを残しつつ、全体を小さくコンパクトに、華奢になりすぎず、重たくなりすぎず、装飾は控えめに、シンプルだけれどクラシカルを感じられるスタイル…
お客様のご希望と大まかなアイディアを元に、ベースとなるカタチを決めていきます。
左のラフ図面は足元のデザインを選択頂いた際の実際の絵です。
和ダンスの台輪部分を加工し、A)チェストの脚とするスタイル、
B)台輪そのままの形状で縮小、和箪笥の面影が強く残ります。
C)台輪を弓形にカットし、面影を残しつつクラシカルな雰囲気に。
ご提案の中から、お好みのスタイルを選択して頂きました。

お客様からご連絡頂きましたのは、今年(15') 2月の事。
メールを頂いてからすぐにお話しをお伺いさせて頂きました。
今から約90年前、大正から昭和へ移り変わる時代の節目に作られたこの和ダンスはご親族様の元、長きに渡り大切に使われ、現代まで受け継がれてきました。
「激動」と呼ばれた時代を生き、歴史を見つめてきた家具は、お客様の元、これからも愛され続ける家具として、時代に合った姿カタチに生まれ変わろうとしています。
私たちリストリーが最も得意とする「思いをカタチに…」
お客様と家具が持つストーリーをいつまでも語られる様な、ステキなリメイクストーリーをお届けします。
1920’s 激動の時代を生き抜いた和箪笥
REMAKE STORY
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完成の極み
RESTORY【 家具再生物語 】
![]() 和箪笥リメイク|タンスからチェストへ | ![]() 和箪笥リメイク|改造前 |
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ようやく「 和箪笥 - チェストリメイク - 」が姿を現しました。
以前の和箪笥からは想像できないこの姿。
和箪笥の持つチーク材の趣にチェリー材の白く、初々しい木材が組み合わさり、家具自体が「まだ馴染めない」そんなぎこちない表情をしているかのようです。
中心に大きく空いた鍵穴の痕、左右に小さく残った取っ手穴。
長い年月を経て溜まった垢をおとし、傷ついた肌を癒し、
新たな家具として、心機一転。 いよいよ化粧直しと行きましょう。
- 熟練の木工美 -
デザインが決まれば、いよいよ製作開始です。
まずは全パーツを解体し、錆びついた釘をひとつひとつ抜いていきます。
バラバラになった木材を必要サイズにカットする際、釘が当たると刃こぼれしてしまいますので、大切な作業の一つです。
正面にあしらわれた無目は和箪笥の姿をそのまま残し、抽斗は大きな鍵穴を中心に左右をカット、こうする事で左右の板厚の差を軽減します。
抽斗の底板も合板加工で強度を増し、それら全てを新たに拵えたチェリー材で覆う様に箱を組んで仕立てます。
言うのは簡単ですが、職人からすればこれ程厄介な事は無いでしょう。
新品の材ではない。100年近く前の木材を組み合わせ1mmのズレもなく再構築する、まさに熟練の職人だからできる業。
天板は30mmのチェリー無垢材を使用し、下縁に彫装飾を施しました。
抽斗にも本来あるべき彫装飾で既存和箪笥の面影を浮かびあがらせます。
匠の技術が形に
![]() 和箪笥リメイク|工房での製材風景 |
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![]() 和箪笥リメイク|本体構成 |
![]() 和 箪笥リメイク|材木選定 |
- Re:メイクアップ -
フレンチポリッシュによる塗装は上記にあげた塗装の様な着色塗装ではなく、
「木材の明暗」+「木を染める染色」+「シェラックの色」で作られます。
今回対象となる木材の色は2種類、既存箪笥のチークが持つ「暗色」と新規木材の初々しい「明色」。木材の明暗が異なれば、木を染める染色で調整をします。
更に、シェラックの色(例えば、濃いガーネットと薄いスーパーブロンズ)を使い分け、濃淡を均一に微妙な色調整をしていきます。
長年の経験と技術があるからこそ、そういった細かい調整が可能になります。
お客様が好む最良の「色」を選択して頂く為に、実際の木材を使用し約10日かけてサンプル板を作成。
実際のフレンチポリッシュ仕上げを目で見て、手で触れて選択して頂きました。
古くから和家具に愛されてきた漆、現代の強固な塗膜を作るウレタン塗装、自然の木目を活かすオイル塗装(オイルフィニッシュ)等、家具に対する塗装は用途・時代によって様々です。
しかし、和箪笥リメイクでは上記の様な一般的な塗装は使用しません。
今回の「リメイク」最大の特徴は、日本で作られた時代家具にヨーロッパの伝統塗装技術フレンチポリッシュ*が加わる事。
フレンチポリッシュは西洋の漆ともいわれるシェラックを使い、薄く薄く塗膜を重ね、アンティーク家具独特の美しい光の層を作り出します。
「和の木工」+「洋の塗装」異なる文化で培われた技術と技術の調和は過去に例をみない、極めて珍しい貴重な作品を生み出します。
「磨く」伝統塗装技術


色を決める
リストリーアンティーク 梅本様
お世話になっております。
サンプルの色見本、到着しました。
素晴らしいものをありがとうございます。
長く見ていると、独特な輝きが見えて来て、
いつまで見ても飽きの来ない色合いです。
完成するのが楽しみです。
![]() 和箪笥リメイク|チェスト|染色 | ![]() 和箪笥リメイク|タンスからチェストへ | ![]() 和箪笥リメイク|タンスリメイク前 |
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「馴染めない」そんな表情から一変、ぎこちなさが無くなり、
見えるのは「ひとつの家具」としての姿。
中央に空いていた大きな鍵穴を同じ木材で埋め木し、
アンティークを代表するマホガニー色で全体を染色しました。
数日間しっかりと乾燥させて…
いよいよフレンチポリッシュによる仕上げにかかります。

ご依頼を受けてから完成まで約3ヶ月。
以前の姿が和箪笥だと誰が想像できるでしょうか。
真鍮の取っ手が付く事で、チェストらしい堂々とした風格になり、
艶やかで奥深い塗膜はアンティーク家具のそれが持つ妖艶な程の美しさ。
この世に和箪笥として誕生してから約100年。
作り手の思い、使い手の歴史を宿し、現代に新たな使い手の元で再び輝きます。
リストリーが贈る最高のリメイクストーリー如何でしたでしょうか。
「和製家具リメイクに対するフレンチポリッシュの施工」は
リストリーならではの
「思いをカタチ」にした作品となりました。
100%天然素材で仕上げられるフレンチポリッシュは約1ヶ月以上かけて、ミクロ単位で少しずつ塗膜を重ね、幾重にもなる光の屈折を作りだすことで、深く妖艶に輝きます。
古くよりヴァイオリン等の楽器塗装にも用いられ、現在では薬や菓子などのコーティングにも使われています。
塗装方法も独特で、刷毛やスプレー等、一般的な塗装道具は必要としません。使うのは布と綿、溶剤としてアルコールを使います。基本的にはそれだけです。 *詳しくは「フレンチポリッシュ、三種の神器」をご覧ください。
左の写真は最初の工程、ステインを落としてムラにならないよう慎重にポリッシュをかけていきます。上2つの引出しは塗る前の状態です。
この時に、ある程度導管を埋めますが、後にチーク材の油分を補填したいので、オープンポアに留めます。
千里の道も一歩から

ご依頼を頂いて2ヵ月、ようやくリメイク最大の山場に差し掛かっていますが、あいにくの雨。
今年(15')4月前半の降水量は過去最高で昨年の7倍以上の雨に見舞われた。当然湿度が大敵の天然塗料はその間、STOP。
「と言うわけにはいかない。」
楽しみに待って下さっているお客様の為にも、納期通り、最善の状態でお届けするべく、作業部屋を締め切り、乾燥機をフル稼働。自宅の乾燥機も持ち出し、温度計と湿度計とにらめっこ。塗装に適した湿度は最悪でも60%まで、それ以上の湿度でポリッシュを塗り重ねれば湿気を吸い白濁してしまう。
天候が回復する度、夜な夜な明け方まで作業に没頭し、また雨が来る度、湿度と格闘する。
桜も完全に散り、清々しい風と共に作業も大詰めに。
前半の雨がうその様にカラッとした晴天が2週間、最高の天気に後押しされ、5月の初め、ようやくフレンチポリッシュ施工が終了。
最後に天然ワックスでビカビカになっている艶をマットに、穏やかに整えれば、3ヵ月にも及んだ「和箪笥リメイクチェスト」の完成です。
4月の雨に泣かされながら

左未塗装、右7日目

天板に程よい艶がでているが、まだ反射は少ない。

「抽斗」・・・ 塗っては磨き、磨いては削るを繰り返す事200以上

「全体」・・・ 塗っては磨き、磨いては削るを繰り返す事200以上


本体の左側側面、艶が増し、鏡面仕上げに近づく。

天板は側面以上に回数を増やし、深い艶を形成。15daysの写真と比べると別物に。

右側面、まだ反射が鈍い。更なる磨きをかけて最終段階へ。

WAXをかけて完成
052-734-6968
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- 完成/受け継がれる家具 -
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