PROLOGUE
今回ご依頼いただいたのは奥様が嫁いだ時にお母様から頂いた桐箪笥。
大切に使われてきたその姿はとても美しく「凛」とした静けさの中に、包み込むような優しさがある。
その美しさゆえに、リメイクとしてどこまで手を加えて良いものか。頭を悩ませた。
リメイクとは「その物と人の思いに寄り添う事」だと、わたしたちは考えます。
これからご紹介しますのは、そんな 物と 人と 未来を繋げる 新たなリメイクストーリーです。
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TV BOARD
子供たちが独立した今、引っ越しを期に夫婦二人の生活にあった道具として、これからも桐箪笥を使い続けたい。
真っ先にリメイクの題材に思い浮かべたのは、モダンな空間にピタっと収まる洋風なテレビボードでした。
桐箪笥特有のデザインを活かしつつ、砥の粉仕上げを洗い落として、新たに塗装を加える。それは、リストリーだからこそできる「フレンチポリッシュ」空間の光を吸収して独特の輝きを放つアンティーク塗装仕上げ。
「凛」とした美しさに温かみある自然塗装を加え、重厚感のある雰囲気を造りだします。
ふた棹ある桐箪笥のうち、観音扉を除いた4つのパーツを横に並べて新居のリビングルームの主役になるような、
「和」の代名詞、桐箪笥を 「洋」の発想とデザインで、世界にひとつだけの作品に仕立てていきます。
段差 30mm
単純に4つのパーツを横並びに置いただけでは「約3センチの段差」と「引き出し位置のズレ」
「丸角と直角が隣り合う形」になってしまい、見た目が揃わず不自然になってしまう。
TVボードとして形をデザインする為に、木部加工でこの3つの問題を解決していきます。
木部加工
CHAPTER TWO
point 1 桐箪笥の下段部と上段部では約3センチの段差がある
point 2 下段の角は直角なのに対し、上段は弧の字型に丸く加工されている
point 3 引き出しの位置がズレて統一感が無い
対峙して問題となったポイントは3つ
既存装飾の撤去
CHAPTER ONE
まずは、「和」の表情を取り除き、「洋」の姿を想像すべく、既存装飾の取り外し作業から行いました。
和家具である桐箪笥のデザインの中心は「金物」です。
シンプルな箱型の家具に光輝く真鍮装飾、鍵穴に彫られている家紋がひときわその魅力を惹き立てています。
桐材の表面は柔らかく、傷つきやすい為、慎重に取り外していきます。
取り外してみれば、金具の跡がくっきりと残っており、年月を経た証が見えます。
その後の塗装を考えると、部分的に色ムラができてしまうので、下地処理を入念に行うことが序盤の大きなポイントになりました。
今回のリメイクもアンティークが持つ特有の
「色艶」を表現する為、桐箪笥リメイク用に
シェラックニスを調合し、天然塗料のみを使
用したフレンチポリッシュ塗装を施し新たな
桐箪笥として生まれ変わらせます。
The
HARDWARE
追求したのは、素材の持つ「味わい深さ」と
美しいフレンチポリッシュ塗装にも負けない存在感。
使い込まれる事で生まれるくすみや艶むら、使い手の「手」にだんだんと馴染む柔らかで美しいフォルム。
歴史と伝統に裏付けられた、本物の証です。
金具は家具に欠かせない重要なアイテムです。
そのスタイルは年代や国、文化によって様々で、
家具全体の印象を左右する大きなポイントになります。
今回のTVボードの金具には「無垢の真鍮」材質にこだわり
英国老舗メーカーより取り寄せ、和の雰囲気を一新しました。
真鍮金具
CHAPTER FOUR
和家具には当たり前に付いている「引き戸」
スライド式のドアは西洋家具ではあまり見られません。
引き戸用の金具も種類が少なく、発想の転換が必要でした。
The
SLIDING DOOR
装いの融合、「和」と「洋」。
CHAPTER THREE
家具に対する塗装は用途・時代によって様々です。
桐箪笥に施す塗装仕上げは砥粉、焼桐、漆、柿渋などが古くからあり、さらに近年のオイルフィニッシュやウレタン塗装など多くの塗装方法で仕上げられています。
リストリーリメイクの特徴は、日本で作られた時代家具やオーダーメイド家具にヨーロッパの伝統塗装技術フレンチポリッシュを加わえる事。
フレンチポリッシュは西洋の漆ともいわれるシェラックを使い、薄く薄く塗膜を重ね、アンティーク家具独特の美しい光の層を作り出します。
「和の木工」+「洋の塗装」異なる文化で培われた技術と技術の調和は他に類をみない、極めて珍しい貴重な作品を生み出します。
今回のリメイクで最もナイスなアイディアは、この「鍵」。
初期段階では、一般的な彫り細工を施し「取っ手」とする予定でした。しかし、西洋家具の開き扉の様な鍵を使って取っ手の代わりにする仕様を取り入れられたら… とても素敵になるのでは?
シンプルなデザインにワンポイントの「キーハンドル」そして、
それを彩る可愛いキータッセル。
もう誰も、これがあの桐箪笥だなんて想像できないでしょう。
引き戸 + 鍵
CHAPTER FIVE
TV BOARD
REMAKE GALLERY
リストリーアンティークがお届けしました、
新たなリメイクストーリーは如何でしたでしょうか。
日本を代表する「桐」材に、漆ではなく西洋技法である「フレンチポリッシュ」を施した例は過去に例の無い、大変珍しい作品となりました。
嫁入り道具としてお客様の元へ来た桐箪笥が英国真鍮金具を使ったTVボードへと、お客様の新たな生活に合った形に生まれ変わり、これからも、これまで以上に愛され続ける存在である事を心より願っております。
今回のリメイクをご覧の皆様
新たな物を買い求める前に、もう一度お手元の家具を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
あなたの restory(再生物語)をお聞かせ下さい。
THE RESTORY CO. 代表 梅本秀作
LAST CHAPTER
桐箪笥リメイクを終えて